感情 / Bhava : state or emotional fervour


テクニックのパートの中で、Bhava と Rasa について少しふれましたが、
このBhava:感情 とは、私たちの日常の中ではどういう風に沸き起こり、舞踊の中ではどういう表現として捉えられているかを、探ってみたいとおもいます。


まずインド古典舞踊の理論の中では、次のように分析されています。

1.Sthayi-bhava : これは、不変な、そして優勢な基本的感情のことをいいます。
         私たちの心に、潜在的に常に存在する基本的な感情です。
2.Sancari or Vyabhicari-bhava : 移り行く、従属的な感情を意味します。
3.Sattvaya or Sattvika-bhava : 気質上から起こる感情であり、身体に影響が及ぶ。

この3つの分析されたBhavaは、舞踊・舞踊劇の中では、身振りの表現の重要な、描写・演出を築いてゆきます。1.Sthai-bhava には、愛(恋情)・笑い(歓楽)・悲哀・憤激・熱狂(気力)・恐れ・嫌悪感・非常な驚き の8種が示されています。たしかに私たちの心を覗いてみると、この8種類の感情をベースに、様々なシチュエイションのもとで、瞬々に変化し、時々に応じて異なるリアクションを表現しています。この感情の流れを見つめると、基本的感情が、ある状況や場面に出くわし、愛がうたがいや不安へ、喜びが意気消沈や心配へ、悲しみが無気力や錯乱へ、また、驚きが狼狽や確信へと導かれてゆく。これが 2.Vyabhicari-bhava と呼ばれ、つづいて 3.Sattvika-bhava の、突然の恐怖に身体が硬直したり、身の毛がよだったり、不安に声が震えたり、嬉しさのあまり涙があふれたりと、明らかに、ある感情の表出が肉体上の変化として生ずる。そういった人間の性質に及んでおり、無意識のうちに、起こってくるものです。

日常、これらは、入り組んで一まとまりとなり、区別して意識的に行為されることはありません。
人それぞれの感情は、激しく荒々しく、真っすぐに出してしまう人、心の内では一杯に満ちているのに表情には出せない人、起こってきた感情を押し隠し異なる感情を表してしまう人。と、その日常においてもこれらは性格として片付けられがちです。
ここで、Bhava が、どう扱われなくてはならないかを、考えずにはいられません。

“Natyashastra”の著者 Bharataによると、Bhavaの語根は、ならしめるとか、満たすという意味である。これは舞踊の中では、Sthayi-bhavaが人間の基本的感情としてあり、そこにきっかけとなる原因が、縁として起こり、次に、それを感情表現として言葉や身振りで表され、その結果、様々な感情が示し出される。この関係性から、演者と観客とのあいだに、満たされるもの、溶け合うものが生まれる。このことがBhavaと呼ばれる。

これは、舞踊・舞踊劇の芸術論でありますが、私たちが、感情に振り回されない、つよい意志をもち、より善き人となってゆくための、とても大切な題材だと思います。
人に具わった感情は、感情を喚起させる条件:Vibhavasが起こることにより、その反応として、次に執る態度が決定される:Anubhavas. これは、原因と結果の法則が、心の奥底に横たわっている基本的感情に作用し、繰り返されているのです。ですから、Vibhavaが起こったとき、無意識に反応するのではなく、どう動くことが、いま、最善なんだろうか。と注意深く、そして敏感に取り扱うことが必要であります。それはまた、ダンスの中に、繊細な感情の本質を呼び起こすことへと繋がることでしょう。